刃の裏側は綺麗に仕上がりましたでしょうか? ここからはいよいよ切れ刃の研ぎに入っていきたいと思います。 要は刃先が尖っていれば、真っすぐだろうが少し丸かろうが切れますし、地金が多少傷だらけでも刃先さえ研げていれば切れるのですが、ここでは真っすぐに研ぐ事を意識して研いでいきましょう。 |
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荒研ぎ〜中仕上げ |
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中すき |
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中すき詳細 (クリック) |
節と闘って負けた、或いは刃物を落として刃が欠けた、頂き物の刃物の研がれ方が酷いのでガッツリ研ぎ落として直したいなど、大きく研ぎ下ろす場合、ちまちま研ぎ下ろしていたのでは日が暮れるどころか夜が明けてしまう。 そこで荒砥石の出番だが、それでもやはり仕上まで持っていこうとすると結構な労力だ。 鉋の耳取りでもそうだが、それなりに刃物を使い、たくさん研ぐ機会があるのであれば、グラインダーぐらいはあった方が良いだろう。 それほど機会がないのであれば、労力でカバーだ(笑) 私も昔の大事な道具は耳以外は全て手研ぎで研いでいます。 要は裏すきのように切れ刃の真ん中をすいてやれば、手研ぎに移行しても安定感があり良いのだが、より効率化を図るため両端まで中すきを貫通して少しでも手で研ぎ減らす労力を減らす。 真ん中より両端は少し浅めにすき取るようにした方が後で綺麗には仕上げやすい。 いずれにせよグラインダーを使う際は熱は刃物の大敵なので、ハイスの刃物でもない限りは、荒砥石などでグラインダーの回転砥石を軽く擦って目詰まりを取り、力を入れすぎず刃物を絶えず左右に移動させる、時々離すなどして熱に注意が必要がある。 |
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斜め研ぎと左右の手 |
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真っすぐに研ぐにあたり、私の場合は技術的に未熟ですので、正面研ぎで正確に安定させるのは難しそうなので殆んどの場合が斜め研ぎです。 研ぎの最中は主に左手人差し指で研ぎ面の状態や刃の当たり具合を感じ取ってコントロールしています。 右手は左手人差し指が感じ取ったと情報を元に命令された動作の邪魔にならないよう注意をして補助の役目をさせています。 ちなみに私は右利きです。 私の場合、右手が勝ちすぎると精度が良くない気がします。 左右平等に、あるいは左手がほんの少し勝つぐらいの気持ちで研いだ方が精度が良い気がします。 では斜め研ぎだと安定するのは何故?(クリック)という事を足りない頭で考えてみました。 2/27 また、斜め研ぎの際の『私の斜め研ぎの持ち方』という、あまり役に立ちそうにないページを作ってみました。 |
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切れ刃の形成とストローク |
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研ぎ方に関しては、真っすぐ研ぐには小刻みなストロークで研ぐという事がよく云われている。 荒砥や中仕上程度でも、やはり真っすぐに研ぐには小刻みに研ぐ方が研ぎやすい。 だから小刻みに研ぐ事が優れているかというと、そうでもない。 例えば砥石丈全部を使って長いストロークで研ごうが、3センチほどの短いストロークで研ごうが、折り返しのたびに減速→速度ゼロ→加速を繰り返すので、折り返しが多いほど移動速度の遅い部分やゼロの部分が多くなり、小刻みに研ぐという事は車に例えると渋滞の状態なのである。 約20センチの砥石全体を使って一往復すると40センチ、15往復で6メートル擦った事になりますが、3センチほどのストロークだと往復で6センチ、6メートルには100往復必要です。 隣の人が長いストロークで15往復する間(6・7秒でしょうか?)に小刻みに100往復するのは不可能に近い。 筋肉が切れちゃいます(笑) 真っすぐに研ぐという事は、別の考え方をすると砥石を真っすぐに使うという事でもあると思います。 そういう意味だと全体に大きくストロークするというやり方は、どうしても中央が凹みやすいので向いていないのかもしれません。 お互いの研ぎ方の特性を理解して、いろいろ工夫してみてください。 |
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上達すれば点線部のように刃先や後ろ、或いは真ん中の角度に合わせてなど、丸い刃でも自在に角度を調整できるようになる。 |
真っすぐに研ぐ場合、よほど気が長いか暇があるなら別ですが、仕上げ砥石では出来れば仕上げ作業だけで、仕上砥石で刃物の歪みを何とかしようなんて事はしたくない。 中砥石の段階では確実に精度良く真っすぐに近い状態にしたいのですが、中砥石でも荷が重い歪みは荒砥石で直して中砥石での負担が楽になるよう、それなりの精度にも気を配りたい。 研削力の強い物ほど歪みはとりやすい。 特に丸く研いである刃物を真っすぐに直すのは掴み所がなくて難しい。 基本的には歪みが強い場合には小刻みなストロークで良いので、ほん一部分でも真っすぐな面を作りたい。 一定の姿勢を決めて姿勢を固定したまま、真っすぐに研ぐ意識を持って、感覚を記憶しながら数回ストロークし、研削痕の位置や角度が自分のイメージと一致しているか研いでいた際の姿勢を崩さずに確認します。 一致していない場合は感覚を修正しながら一致するまで上記の作業を繰り返し、一致したら感覚が頭に残っているうちに、真っすぐを意識しながら今度はしばらく刃の研ぎ傷を確認しないで、角度を維持して研ぎ続ける。 上手く出来ていれば一部平面ができて安定する部分ができるので、その部分を拠点に安定する部分を指で感じ取りながら平面の面積を広げていく。 これが上達すれば、ある程度は刃研ぎののコントロールができるようになり、鋭角や鈍角、或いは左右のバランスなども調整できる。 |
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ロングストロークの砥石の代表的な減り方 |
真っすぐに研ぐという事は、砥石も出来るだけ真っすぐに研ぎ減った方が有利なのだと思いますが、ロングストロークだとどうしても普通は真ん中が先に減りやすい。 関節の動作幅が広すぎるせいなのか力の方向とバランスが一定しにくいのと、真ん中は刃物が完全に通り過ぎるのに対し、前後端の部分ではターンの部分となり、刃物が完全に通り過ぎると砥石から刃が外れるので、どうしても回数を重ねると減りに差が出るせいかもしれない。 そういう意味ではショートストロークで研ぎ面全体を移動していく方が真っすぐに維持しやすいのだろう。 |
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ショートストローク での研ぎ面の移動 と砥石の減り方 (クリック) |
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動画(クリック)
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荒砥石で刃をまだまだ研ぎ下ろさねばならない状態やグラインダーを使って中すきが充分残っている状態では、時間の事を考えると砥石丈いっぱいに長いストロークで研いでも良いと思う。 どうしても歪みが大きくなってしまう場合は、小さめのストロークでとにかく歪みを最小限に抑えた方が後で楽だろう。 ある程度研ぎ減ったらストロークを小さくしたり、必要ならば砥石の平面を直したりして、精度をだしておきたい。 研ぎ方は荒砥でも中砥でも大して違いは無いと思うが、ストロークの大きさは、それぞれの長所をいかして臨機応変に対応したい。 誰が云い出したのか、よく『溜め研ぎ』とか『流し研ぎ』などと云われるが、『溜め研ぎ』とは砥汁を流さないように砥汁中の粒子を利用しながら力を抜いて研ぐ研ぎ方で傷を浅くし、砥石によってはこれをするのとしないのとでは大きな差が出る。 人造砥石でも最後にこの研ぎ方をして、深い傷を減らす事で次の砥石へ移行した際の傷取りが楽になる事もある。 『流し研ぎ』とは無理に砥汁を流す訳ではないが、研ぎ面をヤスリの様に使う研ぎ方で、常に水を足すなどして粘度の少ない砥汁の状態で、砥面に直接擦りつけるような研ぎ方です。 左の動画は、それなりの研ぎ下ろしスピードと平面の安定性を狙った中間的なストローク幅の研ぎ方で、下りに定評のある『刃の黒幕』の#1000での動画です。 刃の平面が出ているので、これくらいのストローク幅でもそれなりに安定していますので、たくさん下ろす必要がある場合には、練習次第で有効かもしれません。 研ぎ下ろし量がそれほど必要でない場合や、次の砥石へ移る際により精度を出す場合、或いはストロークを大きめにすると精度を保てない場合は、小さいストロークでも良いと思います。 便利な言葉ですが、『臨機応変に』です(笑) |
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人造砥石の種類は沢山ありますが、おおよそ同じ番手でも種類により下り具合や研ぎ傷の深さなどかなり違います。 電着ダイヤなどは一般的には下りは強く研ぎ傷は深い傾向で、価格・耐久性・精度などの差もかなり幅があるようです。 また一般的には似たような製法の物であれば軟らかい物の方が下りは強く研ぎ面は狂いやすい。 逆に硬くなると下りない、研ぎ汁が出ないので研ぎにくいなど好みの別れる所である。 |
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荒砥などを使用した場合の 刃先の不具合について |
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そのまま仕上げた 場合の刃先画像 (クリック) |
荒砥やグラインダーで研いだ場合に当然粗いので刃先はガタガタになるのですが、そのまま仕上げまで研ぎ続けても刃先がガタガタに仕上がってしまいます。 刃毀れがあった場合でも、こぼれた部分がいつまでも消えないといった事もあります。 このような場合は仕上がる前に一度刃先をつぶして、ガタガタな部分を均す必要があります。 そうしなけれ研いでも刃先が真っすぐに揃わないという現象に陥る事があるからです。 |
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刃先を潰している 画像 (クリック) |
では実際にどうしているか? 私の場合は中砥で研いだ後、裏の刃返りを一旦仕上げ砥石で取ってから、程度にもよりますが#2000の中砥か或いは青砥などで刃先を潰します。 刃を背中側から見て80度ぐらいの角度で擦りつけて、刃先全体が平らになるまで潰しています。 その後また仕上砥石で軽く刃返りを取って、あとは通常の中仕上げの工程に戻り、普通に刃幅全体に刃返りが出るまで研ぎます。 実際にこのタイミングでこの手順で行う事が効率的がというと自信はありませんので御了承ください。 |
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2012.08.12追記↓ |
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動画 『流し研ぎの例』 (キングハイパー) |
もうひとつの方法として、先の項目でも少し書いた流し研ぎの手法を使ってみると言う方法もあります。 しかし刃返りが強く残る刃に対しては有効かどうかは分かりません。 刃先潰しとの合わせ技でも良いかもしれません。 違う点としては、まず砥粒を次々に流す為にほぼ砥面の固定砥粒で研ぐ事になり研削速度が上がり、やや研ぎ傷が粗くなります。 荒砥などを使うのは気が引けるという方には中砥で流し研ぎという選択肢もありかもしれない。 遊離砥粒が少なく刃毀れ部分等にそれらが集中し過密にならないので、遊離砥粒が刃毀れ部分を重点的に研磨してしまうという傾向が緩和されると考えます。 ただし、即座に砥石の泥を流すので砥石と刃の潤滑性が現象傾向になり、かなり研ぎ難くなる場合もあるので、どの砥石でも良いという訳でもなく、砥石の選択も大事なように思います。 動画では注水にチューブを遣っていますが、弱い水を蛇口から直接砥石に垂らして流して研ぐなどで良いと思います。 |
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仕上研ぎ |
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仕上研ぎとはいっても、複数の特性の異なる仕上砥石でそれぞれの長所を利用してより繊細な仕上がり、もしくは時間の短縮を狙うのか、それとも性能のバランスの良い仕上砥石を一本で仕上げ工程を全て完了するのかという選択の違いもあると思います。 中研ぎなどの工程も含め、どの工程でも複数の砥石を使うという事は、それぞれ仕事の分業化をして効率化や精度を上げる為ですので、それぞれ必要な仕事だけをこなして、次の砥石にバトンタッチしていきます。 長く時間をかけたり工程を増やしすぎる事で逆に悪くなる事もありますので、工程ごとに砥石にどのような性能を求めるのかという事も考え、手順の見直しや今後の砥石の購入に役立ててください。 研ぎ方については、真っすぐに研ぐという事では、よく云われるように小さめのストロークが向いていると思います。 力を抜いて研ぐとよくいわれますが多くの場合、力が入りすぎている方が多いようです。 ただし、これは仕上げでも最後に近い工程や、バトンタッチする砥石の粒度の差に不安を感じる場合など、より本来の粒度よりも細かくできる為にバトンタッチ前に工程の最後の方で使ってみたりと、必ずしも必要以上に抜かなくても良いのではないかと思います。 しかし力を入れすぎて研ぐのは、お勧め致しません。 |
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円を描く様子 の動画 (クリック)
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では、どの程度力を抜くか? ただここで力を抜くという表現自体が誤解を招きやすいのですが、正確には砥石、或いは刃に圧力をかけ過ぎないという表現の方が正しいのかもしれません。 力を抜きすぎて砥石と刃物の接地が不安定になるようでは、力を抜く意味がありませんし、力を入れているうちは刃先の方により力が加わるように研げますが、力を抜くだけでは刃先側に重点的にかかっていた力の比率が平均化して軟らかい地金の方をよく削れ、刃先が研げないという事にもなりかねません。 仕上げの工程までの精度でも研ぎやすさというのは変わってきますので、中砥石での形成技術の練習も欠かせません。 仕上研ぎの力(圧力)の加減をどの程度にしたら良いのか?という事を伝えるのは難しいですが、あくまで目安として砥石に刃を安定して密着させた状態で自在に円を描ける程度を目安にしてみてはいかがでしょうか? もちろん左右の手がうまく連動しなくてはなりませんし、下への圧力強すぎても滑らかには動かせません。 刃と砥石がユラユラしたりカタついたりしないようにしましょう。 |
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仕上研ぎ中の 研ぎ面上の移動 の様子の動画 (クリック)
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円を描くというのはあくまでも説明の為の目安ですので、実際に円運動で研ぐという事でななく、研ぎ自体は前後のショートストロークで研ぎ面上をまんべんなく移動していきます。 慣れないうちや、肩に力が入っているのではないかと感じた時には、前の説明のように軽く円を描いて力加減を確認してみても良いかと思います。 また最後に刃返りを取るのも忘れてはいけません。 一度ではなく複数回、研ぎと刃返り取りを繰り返す事で、より確実に刃返りを取る事ができますが、これも必要以上に行い刃の裏を傷めないようにしなければなりません。 |
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次回の砥石の平面出しの際に、自分の研ぎ方では砥石がどのような減り方をするのかという癖を定規で確認し、より平面に近い形に砥石が減るように研ぐ工夫をする事が、本当の意味でのまんべんなく研ぎ面を使うという意味になり、同時に刃物の精度を保つ研ぎ方という事にも繋がります。 |
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←B鉋の耳と刃裏について |