裏押しの手順と例


私の場合、まず上のイメージ図の切れ刃上の緑の点の辺りを上から押さえます。

基本的には裏スキのある内側の範囲に上から力を加えると安定しやすいです。
これは『A砥石の平面調整』の手癖のコントロールの項と共通した考えで想像の元に書いてみました。
そのイメージ図が(図A)です。

その項での説明と同じように中心付近に向かって力を加えると均等に力が加わるのではないかという考えと共に、狙う位置を変える事で前後左右とある程度自在にバランスを変える事も可能ではないかと考えます。

但し裏スキの無い部分よりも外へ力を加えるとヨレて安定しにくいのではないかと仮定してみました。

作業の内容によっては裏スキの無い部分に向かって力を加える事もあるので、御参考として御理解ください。



上から圧力をかけて力を加えるということは、刃先以外の部分にも必要以上の力がかかり減ってしまうので、刃先の反対側(鉋なら頭、鑿なら柄の部分)を軽く持ち上げて支えます。但し実際に持ち上げてはいけません。

一番上のイメージ図でいくと、あくまでも金盤(砥石)の右側にかかる重さ(圧力)をゼロに近づける感覚で支えます。

胴縁などの木の棒を、刃先側に大きく撥ね出すようにして、背中部分に重ねて刃物と一緒にギュッと握り、刃先側のはね出し部分を持って下へ圧力を加える事により、刃先により力を入れやすくするという方法もよく言われています。(図B)



これらのように刃先側に圧力をかけた状態で前後に(刃に対して横方向に)スライドします。
極力ぐらつかせないように注意しながら、安定し裏の刃先が直線になるまで続けます。

金盤の場合は同じ研磨剤の粒子を使い続ける事で細かくなっていきます。
まだまだ下り足りない場合は新しい研磨剤を足すと下りがよくなります。

砥石の場合は面が狂いやすいので、ほどほどの所で面を平面に直すなどして確実に真っすぐに仕上げます。

中砥の段階で確実に真っすぐに仕上げる事をお勧めします。



次に仕上げに移るのですが、一般的には裏押しには硬い合わせ砥でという話もありますが、私の場合は軟らかい物も使います。
また、人造の場合はそこまで硬い物はあまり見かけた記憶はありません。

要は前の段階でキッチリと形が出来ていれば、それを崩さないように仕上げれば良いのです。
普通の研ぎでも仕上ではなく中砥の段階で刃物の形を作っておくという事に通じます。

新品時の裏押しの際の画像がありますので、下記に一例として紹介します。




裏押しの例



鉋などは新品でも刃が付いた状態の物が多く、鍛冶屋さんから研ぎ屋さんに送られ既に研がれた状態で入手する事が多いと思いますが、とがれた状態とはいえ裏をきっちりと押しなおす事をお勧めします。

左の画像は耳だけを落としただけの、ほぼ新品の状態。




GCを研磨剤として金盤に擦り付けた画像です。

あまり分かりやすい画像とはいえませんが、白くボケたところが金盤から浮いている部分です。

研ぎ屋が悪いのか私が悪いのか、かなり波打っているように見えます。




もう少し刃先と耳近くの足の部分が金盤に当たらずに残っていますが、GCも細かくなり下りも悪くなってきました。

GCの同じ番手を使って、また新たに金盤で裏押しすると下りすぎる気がします。



あと少しなので青砥を擦って研磨剤とする事にしました。

いろんな物や複数の物とブレンドしたりして、いろいろ試してみたりするのですが、う〜ん、微妙〜♪
半分お遊びという事で楽しんでやってます。

今回は青砥という事で…。




軽く擦った様子です。

青砥の独特の脂分のせいか、先ほどより粒子が細かくなったせいか鋼に艶が出て金盤に当たっている部分との明暗がはっきりしました。

刃先の白い部分が無くなるまで擦り続けます。




ようやく刃先の白い部分が無くなったようです。

あとはこの横方向についた傷を順に無くしていこうと思います。

二枚鉋の裏金(押さえ金)の刃裏の場合は真っすぐになった時点でOKですので、特にこれ以降の仕上作業は必要ではありません。





まずは青砥で殆んどの傷を消してしまおうと思います。

この青砥自体は、それほど硬いという訳ではないので、あまり時間をかけて刃の裏を擦り続ける訳にはいきませんが、それほど時間は必要ないでしょう。

青砥に青砥の共名倉を使っています。

仕上砥石でもそうですが、裏を押す時は特に砥石との摩擦による研ぎ感が重く感じるようで、砥汁を出して重さを緩和する事でヨレて刃が丸くなる現象を軽減できると考えています。

特に裏付けもないですが、余分な力も入りにくくなるので、砥石の減りや余計な傷の発生も軽減できるのではないかと考えます。

縦横二分割ずつの計四分割して、それぞれの場所で何度か擦っては使ってない場所に移動して傷を消します。

砥面が変形する前に、とっととやめてしまいます。

傷が消えていなければ、砥石の面を直して再度やりなおします。




青砥で傷を消した際の様子です。

肉眼では傷は殆んど分からなくなったと思います。
ツッコミを入れる人はいないと思いますが物凄く視力が良い人の事は知りませんよ。マサイ族とか(笑)





続いて仕上砥石に移ります。

この砥石は巣板らしいのですが、内曇り系のような色をしています。
そこそこ硬めといった所でしょうか。
やや曇り気味で細かく仕上がり、下りはまずまずです。
筋も問題ないでしょう。

特に決まった砥石を使っている訳ではないですが、今回はこれを青砥の次に持ってきました。

青砥の時と同様に仕上げ用の共名倉で砥汁を出してから行います。




傷も消えて使うのに何の問題もなく仕上がりました。

だが、しか〜し!

もうちょっと欲をだしてみようかな。





この砥石は中山産の超硬系の合わせ砥で、鏡面系の仕上がりをします。

超硬系とはいえ、究極までの硬さには達していない為、究極の硬さの物に比べると、ちょっと優しさを感じる砥石です。
超硬系にはありがちな、ちょっと下りの弱い砥石です。

これも同様に仕上げ用に使っている共名倉で砥汁を出して使います。




ようやく完成です。研ぎ屋さんとの癖?が合わず、耳近くの足の部分にある凹みはとうとう消えませんでしたが、問題ありません。

何度か裏押しするうちに消えるか、耳として落ちてなくなるでしょう。

鏡面ですがギラギラではなく少し落ち着いた感じの艶に仕上がります。

また輝く事が良い事ではなく、逆に輝いていても傷だらけという物もあります。

裏側の傷は目につきにくいようで、判定が甘くなりがちですが、よ〜く注意して見てみてくださいね。
片面だけ一所懸命に仕上げても片手落ちですので。