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砥石の膨張・収縮について


前のページでも少しだけ触れましたが、どうやら超硬口で変質が殆ど見られないこの砥石も、水分の吸収で膨張して砥面全体が盛り上がる、乾燥で収縮して全体に中央が凹むなどの特性があるようです。

この現象については他の砥石でもありがちな現象ですが、通常このような現象の場合は5分なり10分なり水に浸けて充分吸水した所で砥面を修正しておけば、次回の使用の際も同じように水に浸けてから使用すれば問題はないのですが、この砥石はその辺りが少し気難しいようである。

前回使用後に平面修正しておいて、それを使用する際に精密定規で確認すると乾燥で丈・幅ともに中央が凹み定規との隙間ができて光が漏れます。
そこまでの精密さを必要としない場合は特に気にする問題ではありません。

下の画像は砥石の向こう側に懐中電灯をおいて乾燥時の光の漏れ具合を撮影した物、実際の感覚的にはもう少し隙間があり、特に上側の画像の丈方向の隙間はもっと端の方から隙間が見えましたが、キッチリ真横から撮影出来ていないのか、砥石の中央に定規を乗せているので、砥石台の奥への遠近感を見てもらうと分かる通り、砥石の手前側が定規よりもずっと手前に写ってしまうからかも知れません。
なお幅方向はピンボケですお赦しのほど・・・。












この砥石の気難しい所があり、前回の平面に戻す為に少し水に浸けておいたのですが平面に戻っておらず、更に1時間あまり浸けても殆ど吸水して平面に戻った気配がないのです。

研ぎの一時間前に浸けておくということ自体、実用としてはかなり不便な訳ですが、更にこれを翌日まで(時間的には約19時間ぐらい)浸けてみました。

今度は砥面修正時よりも吸水過多になってしまったようで、砥面が盛り上がってしまいました。
感覚的には凹みの隙間よりも大きく盛り上がってしまった感じ。
硬いという先入観で変形などあり得ないと思っていたが、脆く割れるような感じではなく結構粘りがあるという事か?
全部ゴムでできた台が付いているので分かりにくいが、爪ではじくといわゆる硬いというような金属的な或いは瀬戸物的な音ではない。
自分の物ならコンクリートや玄翁などにコツコツ当ててみるのだが。

仕方がないので砥面の水分を拭き取ってしばらく水から上げておき、1時間ぐらいたった頃に精密定規で確かめるとほぼ平面に。
どうやら吸水よりも乾燥は気体になるので砥石の粒子間を出入りしやすいので早いのかもしれない。

平面になった所で研ぎはじめたが、どうも砥石と刃の一体感があまり得られない。
もう一度拭き取って確認すると砥面が盛り上がってきている。
今までの使用感から水に浸けておいても長時間浸けておかないと吸水しないこの砥石が、水を乗せて研いだり砥面修正をするなどの運動が加わることで吸水を促す感じだ。






再度検証

先程までのデータを元に、共擦りであらかじめ可能な所まで砥面を細かく仕上げておいた物を、後日乾燥した状態から使用する。
ちょっとやそっと浸けておいたぐらいでは吸水して平面に戻らない事は分かっているので、実際に研ぐ運動を加えて吸水を促進させる。
平面に戻るまで刃物を研ぐと凹みのRに合わせて刃が丸くなるので、大工道具の裏押しに使う金盤の薄い安物を半分に切って刃を研ぐ代わりに砥石に擦りつける。

これで砥面は更に滑らかになり吸水も促進して平らになるのではないかと思ったが、平面に近づいてきたものの、なかなか平面までにはならない。
金盤の面が大きすぎて圧がかかりにくく、もう少し深くまで砥面に運動エネルギーが伝わりにくいのだろうか。
時間をかけて平面近くになったものの、先日は研いですぐに盛り上がってきたが、吸水過多で盛り上がった砥石を平面になるまで少し乾燥させて使ったので、砥面の表面付近から乾いて平面になったものの、乾燥状態から研いだ場合と違い、もう少し内部には水分が残ったままの為、研ぎ運動でごく表面近くが再び吸水すると盛り上がり、乾燥状態から研ぐ場合よりもすぐに吸水過多状態になりやすいようだ。



1/2にした金盤を名倉がわりに。







結局の所、今回は確実に砥面の膨張をコントロールできる所までには至らなかったが、ずっと浸けっぱなしで保管というのは、移動のある職種には現実離れしているし、乾燥状態からいきなり砥面修正だと全く吸水が無い状態からの修正になり砥面が動きやすいので、実際には30分ぐらい使用したところで砥面修正をして、その吸水率辺りで研ぎをするようにするのが現実的かもしれない。

この砥石でかなり研ぎこみをする場合、人造砥石を名倉にして目を起こすと下りが早い。
しかし仕上がる直前には前述の通り、斜めから見なくても砥面に電気が映り込むようなツルツルの状態でなければ、細かい粒度の砥石を使う意味が薄く、その辺りを逆算してどの程度の粒度の砥石で目を起こすか或いは起こさないかなどを考えてみると良いかもしれない。
目が立った状態で研ぎ終えるのであれば#8000や#10000で充分ではないのだろうか。

砥面修正後に鉋や鑿を研いだ感じでは、なかなか砥面がツルツルの状態にまで均されなかった。
砥面が凹んだ状態から研げば刃の通りは丸くなってしまうし、すでに砥面が真っ直ぐな状態から研げば、時間の経過とともに砥面が盛り上がるので、時間をかけて研ぎこむほど刃との密着面積が減り安定感が落ちてしまう感触もあった。

僕の様な研ぎの場合は、メーカーが#15000の共名倉を付けるか別売りにしてくれると、ほぼ解決するのではないかと思われる。
もちろん仕上げ砥石を共擦りするなどの煩わしさは解消されないが、それ以降の軽微な砥面均しは#15000で行えばすぐにピカピカになり、研ぎだしから均されているので長い時間研ぎこむ必要がない事と、乾燥状態から平面に戻すまでの立ち上がりが、砥石同士なので感触的に抵抗感がなくても、砥石が「均される=摩耗する」という事から考えても、刃物を研ぐよりも食いつきが良く運動エネルギーが効率よく砥面表面に伝わり、研ぐよりも短い時間で砥面表面付近の吸水を完了して平面近くに戻せるのではないかと思う。






余談ですが・・・。

この砥石はいうまでもなく硬い。
電着ダイヤで殆ど下りないし研いでも殆ど減らないが、吸水量で全体に盛り上がったり凹んだりという動きがある事は驚きである。

もちろん硝子板も多少曲がるのであるが、その手の硬い音とも違う。

で、何か分かる事があるかと遊んでみる事に・・・。
100倍のマイクロスコープで撮影しながら、千枚通しのような尖ったもので砥石に複数傷をつけて天然砥石の超硬口と比較してみる。

マイクロスコープにデジカメを乗せて、デジカメの映像をテレビ画面で確認しながら行っていますので、手元がおぼつきません。
これでも本人は天才心臓外科医をモチーフにした漫画をドラマ化した『医龍』の手術シーンの気分。
目元に拡大鏡をつけて精密な手術をする訳ですが、こんな事をイメージしている僕はアホですな。




まずは超硬口の天然砥石での動画(クリック)
YouTube版はこちら



削りかすを掃除後の画像

画像クリックで拡大



こちらは極妙#15000での動画(クリック)
YouTube版はこちら



削りかすを掃除後の画像
画像クリックで拡大

動画を見てもらうと分かりやすいと思いますが、普通は掘った窪みの体積よりも掘り返された削りかすの見た目の量は多くなるはずであるが、超硬口の天然砥石に比べて極妙の方は異常に量が少ない。
ひょっとすると一部は削りかすとなったが、残りは圧縮されて凹んでしまったのかもしれない。
岩石的な種類の硬さではないという事か?

画像はそれぞれ削りかすを掃除した物だが、超硬口の天然砥石は傷の両側がガタガタで、傷と傷の間は浮いて剥がれかけているのが分かりますが、極妙は針の先端が直接触れ合った部分のみが窪み、傷の両側も非常にシャープで、傷と傷の両側も剥がれる気配がない。
極妙は傷と傷の間が狭くなり、ほぼ重なりあっても余分な所はいっさい浮いたり崩れたりないようである。

粒が非常に細かく揃っている事と、やはり多少圧縮されるのか粘りがあるのか・・・。
キングのG-1やそこまで硬くない天然砥石ならあっさり傷と傷の間は剥がれたり崩れたりするのである。
つまり修正しやすい砥石というのは研磨成分の食い込み深さと余分な部分も崩れやすいという事の複合的要素からなるのではないか。

アトマは水玉状のニッケルの出っ張り(山)があり、そこにダイヤの粒が電着してあるが、マイクロスコープで見ると、それほどダイヤが密にある訳ではなくダイヤの粒と粒の間にニッケルも見えている。

アトマエコノミー(電着ダイヤ砥石)拡大画像



極妙の場合、ダイヤの部分が砥石に食い込んでもダイヤが触った個所にのみ傷が入るだけで、ダイヤがニッケルからの出っ張り分の深さの傷が入っても、周りが崩れないのでニッケルの出っ張り全体が砥石に食い込んではくれないのではないか?

そう考えると人造砥石を共擦りした方が、研磨剤の密度も高く全体を減らしやすいのかもしれない。
この辺りが極妙の純粋な硬さ以上に砥面修正のしにくい原因ではないかと思われるが、御使用されている方はいかがお感じになられるだろうか。


何はともあれ、今回使用してみて総評としては人造としては非常に鋭い刃が付く砥石で、気難しい一面はあるものの人造砥石の抱える短所の多くを克服していて、メーカーの本気度が感じられた。

よく特性を理解して研げば、よく切れる刃をコンスタントに付ける事が出来るのではないかと感じられました。




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