中抜き研ぎ



メインのお研ぎの国では裏すきの原理を応用した電着ダイヤによる砥石の平面の出し方や、平面に研ぐ際の重心の位置などを掲載してきました。

特に重心を意識して研ぎ続け完全に近い平面の切れ刃を完成させるには、終始集中して研ぎ続ける必要があり、それは砥面と切れ刃の密着具合や、ひいては指先から伝わる様々な情報収集能力、謂わば繊細な感覚を身に付けるという意味で有効であったと思っているのですが、やはり常に集中し続けるのは大変ですし、効率が悪いより良いに越した事はありません。


研ぎというのは指先から伝わる感覚が非常に重要と個人的には思いますので、あえて初心者・初級者の方にお研ぎの国の主要となる記事ではそれを養ってもらう為の研ぎを掲載しておりました。

ここでは研ぎにも裏すきの原理を応用した『中抜き研ぎ』を説明したいと思います。

『中抜き研ぎ』といっても、私個人が勝手に命名した名前であると共に、私自身も誰から習ったという研ぎ方でもないので正統な研ぎ方とはいうものではないと思いますので、その辺りは御理解の程をお願いたします。





中抜き研ぎ

裏すきの原理を利用して刃の中ほどの肉を抜く研ぎ方です。
利点としては、

  1.平面形成時に安定させやすい。

  2.砥石と切れ刃の接触面積を減らすので早く下ろせる。

  3.中抜きのバランスを変える事で、下ろしたい部分を狙って下ろせる。

  4.R面の刃物でも応用できるので、刃物を選ばない。

  5.荒砥なら荒砥、仕上砥石なら仕上げなりに下ろすので砥石を選ばない。

などいろいろ使い道はあると思いますし、加減次第で微調整にも使えます。
では、原理も含め解説していきましょう。





ここでは鉋を例に解説していきます。
解説は右利きの斜め研ぎが前提です。
利き腕の違う方や正面で研ぎたい方は、御都合に合わせて自分で変換して御理解下さい。

通常寸八鉋は幅70ミリほどあります。
それと比較して幅が40ミリの鉋を同じように研げばどうでしょう?
当然面積が小さいので早く下りますね。

では更に刃先の右端に力を入れて研いだらどうでしょう?
刃の右側ばかりが強く下ります。
刃幅が狭い上にそんな事をすれば右側ばかりに非常に強い圧力がかかります。

そのような理屈を利用して部分的に強く下ろしていきます。






砥面の四つ角のうち何処から研ぎはじめても良いですが、ここではまず自分から見て向こう側の左端からはじめます。

大体平均的な70ミリ程度の鉋としての説明です。

図のように砥石の角をまたいで、刃の両端を砥石からはみ出すように構え、赤い線で示した範囲を刃線に平行に近い感じでストロークします。

赤い丸印は重心の位置(刃先を押さえている位置)で、これ以降の説明でも砥石の上からこの位置がはみ出さないように研いでいきます。

はみ出すと刃が傾いたりよれたりするので、思わぬ怪我をしたり砥石の角が刃先に食い込んでダメージを与えますので注意が必要です。







次にその流れのまま砥石のむこう側の短辺の縁を使って研ぎます。
向きはそのままでもよいですが、少し横向きにした方がやりやすいかもしれません。

縦方向にストロークして徐々に右角に向かいます。

緑の範囲は刃が砥石からはみ出す範囲です。
以降の表示も緑の範囲は同様に刃がはみ出す範囲を示します。







砥石の向こう側の右角まで辿りついたら今度は下へ移動します。

砥石の端を数ミリ砥石からはみ出したら、図とは少し角度が違いますが時計の2時方向へ向かい、図の緑の範囲の刃の内側所(重心点の手前)まできたら7時方向、またはみ出しが鉋の右端数ミリまで来たら2時方向といった感じが、基本的イメージです。

真ん中寄りに来ても刃が砥石の外側にひっくり返らないように注意です。

最初の図で解説したように、はみ出しが真ん中よりに来た時には同じ力加減で研いでも砥石に乗っている面積が小さい事と力点がはみ出しの直近まで来ている事で、幅の狭い鉋の右端に近い所を押さえて研いだ場合に負荷がかかり、はみ出しが小さい所ほど刃幅なりの負荷に納まるという事になり、これが無段階可変式で中心に近い位置がよりたくさん下りるという理屈になります。







先程の研ぎで手前右角に到着したら残り半分です。
ここからは逆勝手に作業を進める事になります。

最初と同じ様に赤い直線で示す範囲だけを砥石に当ててストロークします。






次に砥石の向う側の短辺と同じように、こちら側の短辺も逆勝手で前後にストロークしながら左の角へ向かって移動していきます。

この時もそのまま刃を45度に向けたままでもよいですが、やり難い場合は少し横に向けると良いでしょう。







手前側の左角まで来たら今度は右側とは逆の勝手でストロークしながら向こう側の左角へ。
これで砥面を1周完了で、これを1セットとします。

例えば仕上げもしくは中仕上げで平面に誤差が出てきたかな?と思ったら1セットもしくは2セット、ガンガン下ろす時には5セットなどと1周を基準に調整します。






何セットか繰り返したら、砥面の端ほど強い圧力がかかり減っているので、砥面の中心線は少し高くなっています。

この中心の縦ライン付近で通常の研ぎをして、中心が砥面の縁の減り方に追い付いてきたら全面を使って研ぎます。

中落とし研ぎと普通の研ぎを繰り返す事で、普通なら砥面と切れ刃の面が合うと荒研ぎの際等に下りない現象が常に部分研ぎとなり下りが早くなります。

また応用すれば刃の少し端寄りに中抜きのピークを持ってきたりする事で、左右の研ぎ減りのバランスを調整したりという事も容易になります。

包丁などの反りがある刃物などでも、中抜き研ぎで一部分を落とし、その個所を普通の研ぎ緩和する事でRを緩やかに直線に近づけたり、部分的に早く下ろしたい所を減らして全体のバランスを変えるなどという事も可能です。


刃先に砥石の角を食いこませない事、とにかくこれには注意して、あとは少し慣れればある程度形状のコントロールを容易にしてくれるスキルとなるのではないでしょうか。

最後に参考に動画を貼っておきますので、宜しければどうぞご覧ください。

ではあなたの研ぎライフが充実したものになりますよう\(^o^)/